・・・環境への強さから、屈強な男にたとえられ、ベンケイソウ科に属してはいても、減少の一途をたどっている。道路の拡張工事などで削られた岩場はコンクリートで覆われ、旧家は老朽化して姿を消してゆく。九五年の阪神淡路大震災を機に、県内では家屋上部の軽量化から瓦ぶきの屋根が減った。再び瓦屋根の良さが見直されてはいるが、ふき土を使わないタイプが多くなった。「空ぶき屋根」に、ツメレンゲが根を下ろす場はないのだ。 「プレハブの家が増えて、あの草は、めっきり見かけなくなった」と、半世紀以上にわたって日本各地の屋根に登り続け、瓦を知り尽くした野水隆雄さん(69)はつぶやく。「名も知らんふき土を弱らせる厄介者やけど、長い年月を経た屋根にしか見ん。眺めていると、その家や町の歴史を雄弁に物語っているようで、敬意すら感じたねえ」 そんな草と運命を共にしているチョウがいる。クロツバメシジミだ。幼虫はこれを食草とし、成虫は花のミツを吸う。あまり生まれた場所を離れず、ツメレンゲのそばで一生を過ごす。 神戸新聞 2000年11月23日 「いのちの まほろば 11 ツメレンゲ」より抜粋 |